All the World is a Stage

ミュージカルや舞台の観劇記録や感想、自分用メモなどを書いています。今やっている作品だけでなく、過去作(円盤化作品、映画、ライビュなど)も見ます。

【観劇記録・感想】「IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ」(2021)

☺「IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ」

2021年3月27日@鎌倉芸術館 プレビュー公演1日目!

microウスナビ・林翔太ベニーの回

 

だいぶ時間が経ってしまったが、映画版の前に振り返っておこうと思い、記録。

 

 

 個人的で率直な感想

イン・ザ・ハイツ、初めての観劇。

私は、勝手に気持ちが乗ってきて歌いだしたくなるナンバーの多い作品、または、心の奥の闇に迫り自然と涙が出てしまう作品に惹かれる傾向があり、大部分がラップで構成されるリンマニュエルミランダの作品は今まで後回しになっていた。ラップは言葉数が多いため、どうしても冷静または短調な印象を受け、なんとなく物足りなさが残るのではないかと思っていたからだ。さらに、ラップに慣れていない人間がラップを一緒に口ずさむのは難関(笑)。これを乗り越えるには、日本語歌詞付きの音源が公開されて、上演前から曲に耳を慣らしておく必要があるが、それも難しいだろう。この意味では、映画版が公開されたあとの方がもっと楽しめた気もする。

しかし、ミュージカルである限り、私のターゲットの範疇である。彼の作品の社会性にはずっと興味があったのと、ダンスの上手な林くんが出演するということで、今回喜んで足を運んだ。そして、せっかくならプロのラップを聴こうと思ってMicro回を選んだ。My Way世代だし。笑

 

全体としては、ラティーノの朗らかでタフな性格がよく表れた、楽しく明るい作品だった。お金が無くても、ピンチに陥っても、前を向いてなんとか乗り切ろうという姿は、私の心も前向きにしてくれた。

また、ラテン音楽のノリでつくりだされる独特のテンポが土台に流れる、特徴的なミュージカルでもあった。肝心のラップナンバーたちはリズムが心地よく、意外と緩急も感じられ、自然と気持ちが昂ぶるようなミュージカル的カタルシスが感じられる瞬間も多々あった。

しかし、なんにせよラップ詞はところどころしか聞き取れないため、一人ひとりのキャラクターの細かな心の動きがわかりにくかった。韻を踏むために日常生活では不自然な単語が出てくるため、予測も難しい。

音楽やダンスそのものは楽しいが、ワシントンハイツやキャラクターの背景を予め知っていないと、深く楽しむことは難しい作品という印象である。

アンサンブルのダンスとコーラスが作品全体のクオリティを上げていて、中でも山野光くんのダンスには目が釘付けになった。しなやかなダンスもロックなダンスもどちらも上手。彼はいつか世間に見つかる!(笑)

とはいえ、このミュージカルを一度見ただけでは、物語の中に好きになれるキャラクターは見つからなかった。映画版では、もっと引き込まれるように描かれているのだろうか、俄然楽しみになった。

 

ということで、 次回はイン・ザ・ハイツの作品そのものをもっと好きになるべく、歌詞を引用しながら知識を掘り下げたいと思う!

all-izz-well.hatenadiary.jp

【観劇記録・感想】「ロミオとジュリエット」@東京グローブ座

『Romeo and Juliet -ロミオとジュリエット-』@東京グローブ座

ロミオ役:道枝駿佑 ジュリエット役:茅島みずき

演出:森新太郎

 

なんとなく良さそうなので観に行ったら本当に良かった。笑

結局、一般のチケットをもう1枚取って2回観に行った。

 

主演二人のお芝居の瑞々しさが素晴らしくて、ずっとうっとりしていた。二人の持っている若さと自然な美しさが、ロミオとジュリエットの若気の至り・浅慮とも言える行動に大きな説得力を付け加えていた。(※上演時、道枝くん18歳、茅島さん16歳。)

 

作品全体としては、松岡和子さんの訳に忠実な台詞になっていることもあってか、比較的ベーシックでシンプルなロミジュリ、という印象を受けた。

 

演出はちょこちょこ面白いところがあった。

例えば、みっちーがカッコいい(かわいい)から入れたんだろうなという仕草。やたらにキザなポーズを決めさせるとか。全く鼻につく感じはなく、ジュリエットに恋い焦がれ、はやる気持ちが抑えられないのがダイレクトに伝わってきて、ロミオの青さを微笑ましくも感じられた。美しさと素朴さを兼ね備えているみっちーだからこそ、こんなにも感情移入できるロミオになったのだと思う。理想的な配役だった。

 

茅島さんの清らかさと凛とした雰囲気もまさにジュリエット。最初に鎧の兜を被って出てきたときから、少女らしく奔放でありながら既に芯がある、そんな空気をまとっていた。ジュリエットの独り台詞の量は尋常でなく、感情が高ぶっているので話すスピードも速くなる。それだけでも相当なプレッシャーだったと思うが、しっかり感情が伝わる演技で良かった。茅島さんの声質と発声からは聡明で溌剌とした印象を与えられ、これがジュリエットの周囲の大人の愚かさや鈍感さを際立たせていたように思う。

 

驚いたのは、キャピュレット家の舞踏会のシーン。着飾った女性たちの代わりにドレスを着せたマネキンで代用したり、踊っているのがジュリエットとパリスだけだったり、随分あっさり。その間、外から覗き見しているロミオたちの方に焦点が当たっていた。しかし! これがエンディングに大きなもたらした。カーテンコール中、突然朗らかな音楽が流れ出し、両家揃って楽しくダンスを始めた役者たち。列を入れ替えたりステップを踏んだりと楽しい雰囲気で、観客も自然と手拍子。もしモンタギュー家とキャピュレット家が円満で、ロミオとジュリエットが堂々と結ばれていたら、こんなふうにお互いの間で楽しく平和な宴が催されていたのだろう...。そう考えざるを得ない、架空の舞踏会だった。このおかげで、大人たちのくだらないしがらみのせいで若い二人が死ななければならなかった理不尽に対する切なさが、最後に再び襲ってきた。音楽とダンスは楽しい、そのちぐはぐさが余計に悲劇を際立たせていた。劇中の舞踏会が簡素だったのは、この理想的で幻想的な舞踏会を開くためだったのではないだろうか。

 

2回目は3階席にしたのだが、上から見る霊廟のシーンがすごく綺麗だった。横たわったジュリエットの上にかけられた白いレースの棺掛けが正方形で、二重舞台にあそびなくぴったり広げられている様子が視覚的に美しい。
道枝ロミオが棺掛けを取り去るときの素早く品のある手さばきも素敵だった。(そこ?)

 

また、脇を固める役者さんたちは言わずもがな上手で安定感がある。

特にベンヴォーリオ役の森田甘路さん。ベンヴォってこんな目立つ役柄だったっけ?と思うほど印象的だった。

宮崎秋人さんは、お調子者なのにどこか影を感じるマキューシオを上手に演じていた。彼が登場するたびに目がいくような華やかな仕草・動き・表情と、言葉遊びの長台詞も心地よく聞かせる台詞回しの巧みさなどから、マキューシオを魅力たっぷりな存在に仕上げていた。

 

マキューシオといえばそのビジュアルが気になるところ。いつもおどけて周りの注目を引くのが好きなマキューシオは、ロミジュリの登場人物の中では異色な存在。そのため、演劇や映画では、女らしい格好をして登場したり、彼だけ黒人だったり(他の役の俳優は白人なのにという意味。ロミオを黒人の俳優が演じる作品もあった。)、色々な特徴が付与されてきた。今回の舞台では、白塗りのピエロ風メイクで登場。大きなアクセサリーも沢山付けていた。宮崎さんの演技で引き立っていた、強がりの裏に隠れた危うさが見え隠れするマキューシオの二面性は、道化らしさの塊だと思う。ハムレットマクベスなどには正式に道化という言葉が出てくるし、シェイクスピア作品と道化は相性が良いのだろう。

 

また、ロミオの従者は腰を低くかがめて歩いており、障害を持った設定にしているようだった。身分の違いも十分に表されていたと思う。

 

 

最後に、お気に入りのマキューシオの台詞を...♡ 

恋人たちの頭を通り抜ければたちまち恋の夢
宮廷人の膝をかすめればたちまち御辞儀の夢
弁護士の指をかすめればたちまち報酬の夢
ご婦人の唇をかすめればたちまちキスの夢だ 

今回の舞台の脚本と同じく松岡和子訳。マブ(夢の妖精)の女王について我が物顔で語るマキュ(宮崎さん)の表情が大好きだった!

 

【記録】NTLive ミュージカル「フォリーズ Follies」

☺NTLive『Follies』観劇 @TOHO日本橋

 

2021年3月再上映の最終日に駆け込みで行ってきた。

このころ色々と忙しく疲れていたので、ソンドハイムの心地よくもなかなか出口の見えない(笑)音楽に包まれて、時々夢の中に行ってしまった…。

 

印象的だったのは、若いフィリス役のジジ・ストラレン Zizi Strallen! キレッキレのダンスで目が釘付けに♡ 調べてみたら、イギリスの「メリー・ポピンズ」でメリー・ポピンズ役をやったみたいで納得!

先日WEから生配信が行われた「THE SHOW MUST GO ON! LIVE AT THE PALACE THEATRE」でもジジ・ストラレンが「Practically Perfect」を披露するところが見られた!↓

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【記録・感想】NTLive「戦火の馬」

☺ナショナル・シアターライブ「戦火の馬」@TOHO日本橋

 

この作品の上映は日本で何度か行われてきたが、私は初見。

本当に見て良かった! 

 

最初すぐに心を掴まれ、最後まで穏やかな興奮がずっと持続した。表現には限界がないということを痛烈に感じられる傑作だった。舞台芸術や身体表現に何かしらの思い入れのある人には強くおすすめしたい。


一匹の馬はある少年に大切に育てられるが、戦争の波に巻き込まれてはなればなれに。その後も持ち主との別れと出会いを繰り返す。

戦争の中において完全に人間の被害者でしかなく、中立な立場の”馬”。舞台ではそれがより一層印象的に映った。

 

舞台の主人公は等身大の馬のパペット。本物そっくりに動く精巧なギミックに目を見張る。何より素晴らしいのは、パペットの馬をまるで生きているかのように動かすパペット使いのテクニック。子馬のときは2人で、成馬になってからは3人で、阿吽の呼吸で手作りの馬に命を吹き込む。これらによって、細かい仕草やダイナミックなジャンプまで完全に再現される。

研究や実践を何回繰り返したのだろうか。頭が下がる。真似しようとしてできるものではない。おそらく今後もずっと唯一無二の作品でありつづけるにちがいない。

 

他にも、シンプルな劇場ながら、素朴な遊び心と高度な技術を結びつけたアイデアがいくつもあり、そのバランスが非常に良かった。

 

総じて、素晴らしい観劇体験だった。

 

【記録・感想】NTLive『夏の夜の夢』

☺NTLive『夏の夜の夢』

2020年7月15日 @TOHO日本橋

 

・原題 A MIDSUMMER NIGHT’S DREAM

・作 ウィリアム・シェイクスピア

・演出 ニコラス・ハイトナー

・キャスト

妖精王オーベロン役:オリヴァー・クリス

ヒポリタ役/ティターニア役:グェンドリン・クリスティー

妖精パック役:デヴィッド・ムースト

・上演劇場:ブリッジ・シアター(ロンドン)

 

 

美術と劇場空間の使い方が本当に素晴らしかった!

 

アリーナにいる観客は皆立っていて、中央の舞台を囲むようにしている。音楽ライブのようなスタイルで列などは定められておらず、気の赴くまま自由に移動している人が多かった。

驚いたことに、ハイトナーは観客ひとりひとりを木に見立てたと語った。それによって、劇場空間に森を作り出したのである。

そのため、劇中では、観客に混じって俳優が登場したり、人混みの中を俳優がかき分けて通ったり、まさに、何が出てくるかわからない不思議の森を表しているようだった。観客たちは自分が劇の一部を担当している気分になり、さぞかし楽しかったことだろう。

また、パックを始めとする妖精たちは観客の頭上でエアリアルを魅せる。クルクル回る、いたずら好きで自由奔放、でも憎めない森の精たち。全身を使って観客を誘惑しながら、物語を引っ掻き回してくれた。

美しく効果的な照明も相まって、どこまでも幻想的な空間がつくりだされていた。

 

没入型演劇の理想的な姿に出会ったような気分。しかし、それをはるか遠くから映像で見る私たちはちょっと切ない気もする(笑)